2004年07月25日

別冊「aada」2000.7.25号

☆2000年夏に催されていたメール企画を当時と同じ日程で再放送しています☆
back(7.4)

  "liner noise"

「夏休みもあと10日かぁ」
カレンダーを眺めながら、一瞬 しょんぼりした。
でも、こんなことを考えている場合じゃない。
今日という日は、もう二度と戻っては来ないのだから。

   『金魚』/ 第1話「彼の出発」

 夜7時をまわっているというのに、今日はやけに窓の外が騒がしい。
はしゃぐ声。親をせかす子供の声が聞こえてくる。近所の子供達も杉山神社
に行くのだろう。子供にとってこんなに夜遅くに出掛けることは、大晦日か
今日みたいな夏祭りぐらいなものだ。2・3年前までは僕もよくお父さんに連
れていってもらっていた。でも、小学校6年にもなると親と一緒に行く人は
少なくなり、僕らのように友達同士で神社へ行く人の方が多くなってくる。
 そう、僕は小学6年生。この学年になると、クラスメイトのほとんどは夏休
みを塾や公文で過ごすことになる。1日中、僕と一緒に公園でサッカーをして
くれる友達というのはどうしても限られてくる。

 そろそろ来る頃かな。
「ピンポーン」あ、来た! 「はーい」僕は玄関まで走った。
ドアを開けると、ついさっきまで一緒に遊んでいた友達のうっちゃんが約束
通り迎えに来てくれた。昼間よりもさらに興奮した様子だった。
 うっちゃんとは小学校に入った時からずっと同じクラスで、今でも毎日公
園で遊んでいる一番の友達だ。いつもサッカーボールを持って外で遊ぶんだ
けど、二人だけじゃおもしろくない。しょうがないから同じ公園で遊んでい
る低学年の小僧達とよく一緒にサッカーをやっている。
 その中でも特に生意気なガキがいて、ってこんな話をしているだけで腹が
立ってきた。"あきひこ"とかいうその小4のガキは、出会った当初から僕の
ことを「アホ兄ちゃん」と呼び続けている。うっちゃんに対しては親しみを
こめて「お兄ちゃん」などと呼んでいるにも関わらずだ。この差はなんだ。
あのヤロウ、ガキながらに人を見る目がある。

 杉山神社へ行く前に、僕らにはやらなくてはならない決着があった。
僕の自転車を前にして、二人はにらみ合う。
うっちゃん「いいんだな」 僕「ああ、いつでもかかってこい」
せーの「じゃんけん ポン!」
最初にチョキを出すクセが、またでてしまった。

 僕「なあ」 うっちゃん「なんだよ」
「この坂、二人乗りだと結構キツイんだけど」
「負け犬は黙って こげ」
 しょうがなく、ペダルを少しづつ前に回していく
「…ひとつ聞いていいか?」
「なんだ負け犬」
「何でうっちゃん 女座りなんだ」
「いいじゃねえか。雰囲気よ」
「なんか恥ずかしいんだけど」

 今日は朝からドキドキしていた。
「この道、まっすぐ行くと杉山神社だな」
うっちゃんの言葉に僕の心臓がドキリと走った。
なぜ僕はこんなに緊張しているのか、理由はハッキリしていた。
(神社にあの娘が来てるかもしれない)からだ。
心臓のコドウは静かに波うっていた。

 神社に向かう途中、親子連れの姿をよく目にした。子供の多くは、右手に
赤や白のわたアメ袋を握りしめ、左手には金魚をきっちりぶら下げていた。
楽しそうに神社から帰って来るそんな光景を眺めていると、嫌でもワクワク
させられた。
 夏祭りといえばやっぱり浴衣を着た女の子が多い。彼女たちの横を通り過
ぎるたびに、ちらっと顔を確認しては ホッとしていた。ひとつひとつ安心し
ているにもかかわらず、コドウの波はますます高まっていった。
…うっちゃん、その座り方はやめてほしいんだけど。

 なにごともなく、自転車は神社にたどり着いた。
夏祭りに来るといつも思う、とにかく音がでかい。ただでさえ人が混み合っ
ているのに、その中でババババと鳴り響く出店の電源の音、そこで働く兄ち
ゃんの掛け声なんかが、ぐるぐる回っている。この音に囲まれていると、今
年も夏が終わりかけていることにふと気づかされる。
無性に金魚すくいがやりたくなった。水槽の中を見まわしていると、
小さくてかわいい金魚を見つけた。なんとなく彼女に似ている気がした。
僕はその一匹に集中し、必死でとった。
今 僕の左手にぶら下がっているこの小さな金魚に、
僕は“流星号”と名前をつけた。

                  『金魚』/ 第1話 おわり

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ラベル:金魚
posted by ozy- at 23:48| Comment(0) | TrackBack(0) | ああだこうだ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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