2005年03月02日

nostalgy「帰ってくるあなたが最高のプレゼント」

先輩
もうすぐクリスマスですね。
そこで、ちょっとご相談があってお手紙しました。
今、私は彼と過ごすスウィートクリスマス計画を立てているのですが、
彼はその話をすると妙に避けるんです。
…もしかして誰か他の人とイブを過ごすつもりなのでしょうか?
彼が最近ぼーっとしていることが多くなったのは、
もしかしてその人のことを考えているから?
あ〜、気になって眠れません!
…でも、こんなことばっかり考えてる場合じゃないんですよね。
今は受験生にとって大事な時期なんですから。
がんばれ! わたし!!

追伸。
そういえば彼って、どこの高校を受けるのかな?
もー、そういう大事なこと、話さないんだから、アイツは!
                  12月15日 ちょっとオコッてる後輩より



『11月1日』
野球部三年生追い出し引退試合。
三年生対一二年生合同チームとの紅白戦が行われた。
8番ライト、背番号16。
浩は中学に入って初めてスタメン出場を果たす。
三年生側ベンチの裏には夕紀と響子が、少し離れた所に夕紀の両親、
なぜかその他の商店街のおいちゃんおばちゃんまでもがこぞって
応援に駆け付けていた。
六回裏、1アウト一塁三塁、バッターは浩。
狙いを定めた三球目が見事に当たる。打球は高らかにレフトへ。
二年生小畑がキャッチ。同時に三塁走者近藤がホームに向かって
走る。小畑はそのままホームに投球。近藤ヘッドスライディング。
審判、大きく両手を広げた。
「セーフ!」
商店街応援席が一斉に立ち上がる。抱き合う夕紀と響子。
浩にとって初めての打点だった。
結果は3−3。
試合は引き分けたが、商店街応援席は優勝パレード状態だった。


『11月18日』
学校から帰ってくる浩。
めずらしく家の鍵が開いていた。
「あれ、ただいま。父さん帰ってたんだ」
「おかえり浩。これ、母さんからお前に」
父から手渡されたのは、母が編んだと思われるセーターだった。
「東京で会って来たんだ」
「仕事で近くまで行ったから、ついでにな。元気そうだったぞ」
「そう…。またワンポイントで僕のイニシャルが入ってるんだけど」
「今年は上手に出来たって喜んでたぞ。大切に着なさい」
「これ恥ずかしいんだよなぁ」
「浩、ちょっとここに座りなさい」
「え、あ、ごめん。ちゃんと着るから」
「そうじゃなくて。まぁいいから座りなさい」
「何だよ、あらたまって」
正座で対面する父と息子。ひと呼吸置き、静かに話し始める父。
「父さん、母さんともう一度やりなおそうと思ってる」
「うん」
「その前に、浩の意見を聞いておきたいと思ってる」
「僕は、反対する気はないよ」
「そうか」
「なんだよ。そんなことか」
「そんなことじゃないだろ」
「だって父さん、母さんと別れてからしょっちゅう連絡とってたじゃん」
「何で知ってるんだ」
「バレバレだよ。こっち引っ越してもう2年も経つけどさ。
 母さんの話ばっかりじゃん」
「そうかな。そう言われてみればそうかもしれんな」
「自覚ないんだ」
「お前と話してると、何だか、父さんの横に母さんがいないのが
 最初さびしくてな。そのうち慣れてくるかと思ったが、駄目だった」
「未練タラタラじゃん」
「父さんも、やっぱり母さんがいないと駄目なのかもしれんな」
「そうだろうね。もうこっちは家事もほとんどやらされて大変だったし」
「浩にも迷惑かけたな」
「いい迷惑だよ」
「浩がいいんなら、母さんにもそう言うよ」
「早くしろよな」
「実は、東京でもうしてきた」
「なんだよそれ」
「それで、年内にも東京に戻ろうと思ってる」
「は?」
「実は会社にも相談してな。浩もよく知ってる山口専務に事情を説明
 したら、何とか年内にも戻れそうなんだ」
「ちょっと待ってよ、年内って、12月ってこと?」
「そうだな。早くて12月中旬ぐらいには」
「急だよ」
「浩には振り回してばかりで、申し訳ないと思っているが」
「転校ってこと?」
「中一の秋頃までいただろ、第二中学校。またあちらに」
「こっちは?」
「済まないが」
「ちょっと待って、急すぎるよ。せめて、卒業までとかさあ」
「浩のためにもそうしたいんだが、父さんの仕事の関係でな」
「そんなの父さんの勝手だろ」
「前にいた部署にちょうどひとつ席が空いてな」
「そんなの」
「年度末に向けて父さんもなるべく早いうちから協力したいんだよ」
「そりゃ、わかるけどさぁ」
「じゃあ、浩だけ三月まで残るか?」
「残るよ」
「そうか…。なぁ、浩」
「なに」
「もしかして、彼女とかいるのか?」
「そんなんじゃないけどさ」
「けどなんだ」
「好きな子はいる」
「そうかそうか。浩も成長したな。一丁前に」
「うるさいな」
「そういうことなら、そういうことで母さんに言っとくから」
「…うん」
「受験はどうする」
「高校は…、東京で受けるよ」
「そうか。だったら、受験する時はうちに来なさい」
「うん」
「一人で大丈夫か?」
「うん」
「そうか。浩は母さんに似て、しっかりしてるからな」
「父さんが何もやらないからだろ」
「そうか。そうだな」
「何だよ」
「いや。昔、母さんにも同じこと言われたから」
「あっ」
「いいんだ。また母さんに愛想を尽かされないようにしないとな」
「あ、でも、こっち来てから父さん少しはやるようになったし、料理とか」
「そうだな。それは浩の方が帰りが遅いからだろ」
「ああ、うん。ごめん」
「いいんだ。野球、頑張ってるんだもんな」
「うん」
「この前の引退試合、見に行けなくて悪かったな」
「もういいよ」
「浩の打席、見たかったな。初めてのスタメンだったんだろ?」
「あんまり打てなかったけど」
「打っただろ、一本」
「あぁ犠牲フライ」
「初打点だったんだろ?」
「まぁ」
「見たかったぁ。嬉しかったろ」
「うん。ちょっとね」
「父さんもグラウンドで一緒に喜びたかったなぁ」
「いいよ、恥ずかしいから」
「何、親が子供の応援してどこが恥ずかしい」
「父さん絶対、騒ぐから」
「そりゃ大騒ぎするよ。母さんも呼んで一緒に騒ぎたかったぞ」
「そんなおおげさな」
「おおげさにするさ。家族の一大事なんだぞ、息子の初打点は」
「…、父さん」
「なんだ」
「僕、父さんと一緒に行くよ」
「…いいのか?」
「うん」
「ありがとう」
「そんな、いいよ。おおげさな」
「父さん、嬉しい。母さんも喜ぶぞ、絶対。絶対」
「うん。そんな泣くことないだろ」
「いいだろ。父さん、今とっても嬉しいんだから」
「ああ、そう」
「さっそく母さんに電話だ」
「ほら、その前にティッシュ」
「済まないな」
「いいよ」

慣れた手付きで電話のダイヤル回し始める父。
「もしもし母さん? 東京、戻ってもいいかな。
 うん、そう、浩と一緒に。
 そうだよ、浩も一緒にだ。一緒に。…
 ほら浩、母さんだ」
「もしもし、母さん?
 何もう、夫婦そろって泣くなよ。
 いいよ、うん。わかった。わかったから。
 え? わかった。うん、父さんに言っとく。それじゃあ」
「何だって?」
「父さんに似て、あきらめが早いって」
「何だって? ちょっと貸しなさい。
 おい母さん、それどういう意味だ」



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ラベル:Nostalgy
posted by ozy- at 23:47| Comment(0) | TrackBack(0) | ああだこうだ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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