2ヶ月後の4月28日で私もmisozy(三十路)です。
そんな大人のミッドナイトムードでお送りします。
別冊「aada」19982007
#2007年3月で限定ページは終了しました.
#あらためてこちらで再掲載していきます.
今日でこの物語もおしまいです。
一ヶ月という短い間でしたが、ここまでお付き合いして下さった方、
ありがとうございました。
#第一話(2.07) / 第二話(2.14) / 第三話(2.21)
衝動だけでこの物語を書き上げた21歳の自分と向き合うことで、
結構なんでもありかもと思えるようになりました。
思いついたことがあったら、その勢いのままに表に出してみると、
あとあとになって歳を重ねた自分が面白がってくれるもんだと。
やり始めることに、遅いも早いもないんだぜと。
これからも“Like a Rolling Stone”でやりますぞ。
というわけで、最終話です。
お気楽にどうぞ
『告白前』 / 2月21日 合格発表
二人は緊張しながら、電車に乗っていた。そのうちの一人は周りを必要以上に警戒している。
「なぎさぁ、恥ずかしいよぉ」
二月二一日(月曜日) 合格発表
“まもなく南鎌倉高校前。南鎌倉高校前でございます”
何事もなく、ほっとしたように電車を降りる二人。
「今日は早めに来て良かったね。春菜♪」
「最近すこし人間不信になってるよ」
学校まで続く雪解けの坂道は緊張した顔つきの生徒達であふれていた。
「春菜。ぜったい滑ったり転んだりしないでよ」
まわりの視線が一挙に集まる。江ノ電の発車ベルが遠くから微かに聞こえた。
「…、今はそういう言葉も使っちゃダメ」
空に浮かんでいた黒い雲はだんだんと集まり始めていた。今日の寒さだと、このまま雪になるかもしれない。
「あっ!あそこじゃない? ほら、人が集まってる」
校門を抜けた所に人だかりが出来ていた。緊張は一気に加速する。二人はしばらく考え込んだが、結局いっしょに見に行くことにした。
人だかりの中を、ひとりは強引に前へ進み、その後ろを引っ張られてもうひとりも入って行った。
空を覆っていた黒い雲は、いつの間にか冷たい雪を降らせていた。喜びも悲しみも交じり合う鎌倉の街は、白く静かに彩りをかえてゆく。
「よし!」
「あ。あった! やったぁ! 渚、おめでとう!」
どちらが合格したのかわからないほど、私達は喜んだ。
「ありがとう春菜。そんなことより自分はどうなのよ」
うん。再び、人だかりをかき分ける。
あ、あった。受かってる。
「よっしゃあ! 春菜おめでとう! さっそく電話だ。輝く未来に向かってレッツGo!」
おー!
電話ボックスは三つ。校門の脇に並んでいた。今なら、一番右端が空いている。二人はその前で、手慣れたようにじゃんけんを始める。
ひとりが勢いよく中に入って行った。
「春菜、ごめんねっ。それじゃあ、おっ先〜」
「そんなにあわてなくても大丈夫だよ」
その大きな声は、隣にいるこちらの電話ボックスの中にまで聞こえてきていた。
…ハルナ? 確か今、ハルナって聞こえたな。
外に視線を向けてみた。数秒、電話の会話が途絶えた。
『章夫、どうかしたの?』
『い、いや、別になんでもないよ、母さん』
光よりも速く背を向ける。一瞬、目が合った。ような気もするけど。
あわてるな。もう一度、確認してみよう。右隣の電話BOXの前だったよな。今度はそおっと振り返るぞ。よし。そおっと。
正解。この前、試験の時に会った女の子だ。確か、加藤ハルナさんだっけ。受かったのかな。ん? あれ? 待てよ…。ってことはだ。この横のボックスの中で妙にハシャいでいる、こちらのムスメさんと言うのは…。
“カチっ”
『チャコの海岸物語』の再生ボタンが押される音がした。さざ波のイントロが静かにはじまる。
“♪抱きしめたい〜”
やっぱり。この前の彼だ。どうしよう…、私達のこと気付いたかな。今、渚はちょうど背中を向けて楽しそうにお母さんと話してるけど。この大きな声じゃ、隣の彼にも筒抜けだろうし。
『うん、わかった。じゃあ今夜は私の好きなチーズ入りにしてね』
のん気にチキンのホイル巻きをリクエストしてる場合じゃないでしょ、もう。彼は横目でチラチラ渚の背中を見てるし。お願い、どっちでもいいから早く出てきて!
『おばあちゃん、そんなに泣かないでよ。受かったのは僕なんだからさぁ』
家族全員で電話をまわすのはやめてほしい。今日は特にそう思う。早く切りたい。はやくっ。はっやっくーっ。逃げたい。ああ、悪夢が。っていうか悪魔が。神様、どうかこの娘がこちらを振り向きませんようにっ。
願いは通じたのか、渚は受話器を降ろした。
「やったぁ」
春菜と章夫は同じやったぁを叫んだ。渚は満面の笑みを浮かべて、後ろへ180度振り返る。
出会いはいつもスローモーション。再会もまたしかり。笑顔の渚。絶句する十五歳の少年少女。
幸せと不幸がはっきり分かれる合格発表。今年最後の雪が積もる。
あとは、ただただ春である。
『告白前』 (c) liner note.
ラベル:告白前